妄想に生かされる

自分語り、BL、創作、性癖などを置いていく場所

さよならの話

 今朝、実家で世話していた猫が天国へ旅立った。

 ついこの間まで元気に動き回っていたのに。話によると、今朝玄関の近くで一鳴きしたと思えば、次にはもう目を開いたまま倒れて死んでいたらしい。

 突然のことだった、ように思う。死因はわからないが、心不全か何かだろうということだった。父と話し、庭に埋めることも考えたが、辛くて埋めきれないというのと、あまり整備された庭でもなく蛆でも湧いたら堪らないので、明日朝一で業者に引き取ってもらうことになった。

 

 ダンボール箱に入った、物言わぬ姿を見て、体に触れてみると当たり前だが硬かった。もう魂はそこにないのだから体は温かくないし、柔らかくもない。毛は柔らかいままでも、いくら撫でても喉を鳴らすこともなかった。

 俺はしばらくその箱の前から動けず、長いこと硬い体を撫でていた。だけど魂のない器を触り続けることに意味があるだろうかと思い、箱を閉じ、顔を洗い、もう悲しむのはやめにしようと心に決めて平静に振る舞った。

 突然ではあったが、10年は生きたし、昔と比べて痩せてきたなと思っていたし、もうあまり長くないのかもしれないとは思っていた。それが少し早まっただけだ。死は避けられない、誰にでも平等に訪れる。あの子も天国に行ったのだと信じ、これまでの感謝を述べる他ない。

 

 

 死んだ猫のことは「みけ」と呼んでいた。呼んでいた、というのは元々うちの猫ではなく、近所で飼われていた飼い猫の彼らを餌付けし、本名がわからないからと勝手にそう呼んで可愛がっていたからだ。

 出会いは10数年前。その頃は猫は2匹いて、それぞれメスを「みけ」オスを「くろ」と呼んでいた。2匹とも飼い猫なだけあり人懐こく、近くを通りかかった俺や親を愛らしい声で呼び、頭や体をすりつけてきた。

 猫たちはその家の娘さんが飼っていたらしいのだが、娘さんが亡くなり、両親が世話を始めたが、健康上の理由で次第に世話ができなくなってしまった。そして餌だけを置き家を離れ、猫たちが自由に出入りできるよう窓を開けていたが、地域柄野良猫も多く、勝手に入り込んだ野良猫たちに餌をすべて食われてしまうようだった。

 それを不憫に思ったうちの父が、2匹に餌をやり始めたのが始まりである。餌をあげだすと猫たちはだんだんとうちの前まで来るようになり、ついには家の中まで入ってくるようになった。この頃にはすっかりうちの猫のような感じで可愛がっていて、それを見た元の飼い主さんも「あそこの家で面倒みてくれんかなぁ」ということを言っていたらしい。これぞWin-Win

 「くろ」は本当に猫かと疑いたくなるほど人懐こく、ぐいぐい頭を押し付けてきて、家の中で寝せれば鼻息荒く顔面に飛び乗ってくるほど。

 それから早10年。先に天国へ旅立ったのは、オス猫「くろ」のほうだった。正確な歳はわからないものの、みけより歳は上だったし、最後はみるみるうちに痩せていき、もう長くないだろうと悟った。最後にはほぼ骨と皮だけの体でよろよろと歩き、ご飯も食べられず、粗相をしたり、見ていて痛々しかった。だからそれなりに心の準備というか覚悟はしていたし、最期はうちの家の前に置いていた、お気に入りの箱の中で看取られて死んだというから、よかったのかもしれない。それが2年前。

 

 「みけ」が死んだと聞いて、まず浮かんだのが「なんで?」だった。突然だったのだ。10年一緒に過ごしてすっかりおばあちゃんだとはわかっていたが、まだまだ生きると思っていたし、また会えると思っていた。何か病気に罹っていたんだろうか。最近えづくような仕草が多かったから、喉を詰まらせでもしたんだろうか。「猫 突然死」でググってみたりもした。そんなことに意味はないと知りながら。

 「死ぬ」ってこういうことなんだなと、くろが死んだときも思ったが、今回も思う。ぬくもりがなくなって、思い出が過去のものになって、そして、もう二度と触れることができなくなる。どんなに仕方がないとわかっていたって悲しいけれど、いつまでも引きずるのは猫のためにも俺のためにもならないだろう。猫たちはきっと今頃天国で再会して、仲良く遊んでいるはずだ。……いや、そういえばあいつら生前めちゃくちゃ仲悪かったから、元気に喧嘩してるかもしれない。それならそれでいいけど。

 今でもまだ、実家で俺を迎えてくれるんじゃないかとか、すぐ横で丸まってる体を撫でることができるんじゃないかとか、ゴロゴロ聞こえてくるんじゃないかと、ふと考えてしまう自分がいる。そのたびに叶わないことを知り、胸が塞がる。父は二度の看取りを経験し、「もうペットはいい」と言う。俺は、看取るまでが飼うということだと思うし、死ぬのが悲しいから飼いたくないなんて、今でもそうは思わない。猫は人生を豊かにしてくれる。2匹の猫は、俺にたくさんの幸福を与えてくれた。最初は違ったけれど、2匹は間違いなくうちの猫として生を終えてくれたのだ。これ以上の幸せはないだろう。

 だからしばらくは悲しいだろうけれど、少しずつ受け入れながら、日常に戻るよ。

 

 ありがとう。お疲れ様。

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あんまり写真が残ってなかった。もっと撮ってたらよかったなと、それだけが心残り

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生前のみけ(左)とくろ(右)。珍しく寄り添って寝ていたので感激して思わず撮った